未明とむらさき
木立 悟





光もなく影はあり
暗がりの上ゆうるりと
さらに暗いものが映りひろがり
そこだけが薄く押されたように
夜の道にたたずんでいる


得体のしれない心が歌い
海辺をひとり歩いてゆく
波間の虹に振られる手
虹の数だけ増えてゆく


明けゆく空を追う鳥に
むらさきはひとつ染みわたる
灯りのなかに
少しだけ淡い灯りがひらかれ
歩み去る見えないもののかたちを
夜の道に浮かばせている


むらさきから 鼓動から
生まれる白と黒の線
まばたきの合い間に交わされる
文字と色の会話たち
手をとる白と黒の線
輪になる白と黒の線


川辺の草に沿って歩み
向こう岸にだけ降る雪を見る
何かを縫う音が響く
無心に何かを縫いつづける姿が
星と雪にいろどられながら
夜の川を流れてゆく


遠く斜めの灯りに照らされ
薄暗がりの陸橋の上を
巨きな蜘蛛の影が横ぎり
鉄路のほうへ消えてゆく


渦の風に漂うオリオン
瞳から瞳へ打ち寄せて
道の光を踏みしめることなく
心は歌い 歩みを歩み
空をわたる会話と鼓動
空をわたる鳥たちのこだま
空をわたるむらさきを見る










自由詩 未明とむらさき Copyright 木立 悟 2006-02-21 17:37:24
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