ひつじ踏んじゃった
夕凪ここあ

ひつじを踏んだ  声はなかった
ひつじは足下で  ばたばたしていた
ような気がした

「元気かい」とためしに声をかけたが
ひつじはひどく疲れていたか
もしくは踏まれて不機嫌だったのか
答えは返ってこなかった

次の日も
ひつじを踏んでしまった  声はなかった
このひつじは何も言わないので
足下にいたとしても気づきにくい
やはりばたばたしていた、
ような気がした

ひつじを踏まない日もあったが
もう遠い記憶の隅に追いやられてしまっていた

今、ひつじはここにいない
あまりに踏まれたからか
いつの日かその小さな体でどこかへ行ってしまった
もしかしたらどこかで踏まれているかもしれない

悪いことをした、
と思いもしたが
もはやひつじは遠い存在であり
果たしてあれは
ひつじだったかやぎであったか
記憶の隅の方に追いやられてしまっている

もう
ひつじだかやぎだかを踏むことはなかったが
今でも石ころか何かを踏んでしまったとき
あのばたばたが記憶の隅の方から顔を覗かす


自由詩 ひつじ踏んじゃった Copyright 夕凪ここあ 2006-02-21 04:06:48
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