MAGICAL MYSTERY TOUR
まほし

【運転室】

ミステリーツアーの
ほんとうの行先は
汽車の運転手さえ
知らない
 
行先はレール任せなので
運転手は楽譜を前に
指揮を振っている
振りをしているに過ぎない

楽譜には
汽車にも心があることは
書かれていないので

運転手は知らない
汽車もアドリブを起こして
脱線する可能性があることを



【1号車】

GOO GOO G'JOOB_と
石炭の熱く焼ける臭い
HOA_と
蒸気の押し寄せる匂い

汽車の壁の裏側にも
皮膚の裏側にも
鼓動を予感しながら
青年は座席の石となる

僕は二人称なのか三人称なのか
葛藤の狭間
自分を求める気持ちは
車輪を動かして



【2号車】

「とこやさん」
「ぎんこう」
「しょうぼうしゃ」

車窓を開けて
早送りで流れる風景
を指差して

母親は
息子に
言葉を教える

言葉は早送りされたまま
息子の中で歪んだ地図となって

成長の土台となる



【3号車】

「自分なんて
何処にもいないもん」
が口癖の少女

苺のルージュを塗りなおしても
そこに故郷の血が滲んでいることさえ
味わえない



【4号車】

汽車の上の愚か者は
大きく開いた心の眼で
レールの先を見ようとする

旅のカラクリを
伝えようとすればするほど
愚か者は人の輪から外れて
声は体の内へ向けられる

煙が迫り来ると
眼から辛い涙がこぼれ
声は小骨となって喉を刺す

・・・このまま
汽車から飛び下りたら
ほんとうの愚か者に
なってしまうのだろうか



【5号車】

誰もいない

汽車のネジの雨が
降るのを見て

乗客はみんな逃げたけど

どの車両に行っても
危ないに違いない



【車掌室】

「こんにちは」と
「さようなら」するために
旅しているのだろうか

目まぐるしく過ぎ去る風景に
車掌は想う

やがて
自分の頭の上にも
ネジの雨が降るだろう

それでも

「さようなら」の果てに
帰るところがあるから

旅しているのかもしれない





自由詩 MAGICAL MYSTERY TOUR Copyright まほし 2006-02-18 07:09:25
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