さくら
霜天

咲く、羅列の空は埋め立てられて
さあ、暮れて望まない夜に
駅前の車列に後ろから急かされて
家路の、振り切る早足を抑えられない
駅から吐き出される、ため息と等しく
順序良くもうひとつ、暮れられる




可能性だよ、としたり顔で
口の端を滑らせるその背後で
昨夜、解けなかった数式が
本から抜け落ちて
無表情で見下ろしている
部屋中に数字を書き込んで
その間、君は夜景を見ている
次第に僕の体は膨らんでいって
境目が、見えなくなっていく


きみはねむりながら
つめをきり
みみをくすぐる
きっと真夜中には傘が足りない


眠るために毛布を抱きしめた
その布もきっと
弾かれた鉄板のように強く音を出してみたい
願うはずで
なにもかも、どれかひとつを選びなさいと
差し出されたものを食べて大きくなりました
そう、願うように僕ら、暮れられて
いつか部屋にはひとり、ふたりだった
淡い色の花が僕らの隣を埋める
とりあえずそれで口の中をいっぱいに、して
どこか、ちらちらと、満足していけるような


もうすぐ、すべてが帰っていきます
閉じていた本を、開いて
さよならというよりも
ただいまと名付けて




咲く、(僕、又は君)等の
可能性、といえますか
振る手のひらの、上の線が見えますか
そこには、ため息と等しく、足跡より深く
刻まれた道筋が地図の上になぞられて
まだ、見張っていますか
僕らは暮れる、それが出来て
咲く花の淡い一枚を口の中に押し込んで
笑いあって、その線上の
家路の


帰る、ための


自由詩 さくら Copyright 霜天 2006-02-15 15:46:26
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