劉海戯金蟾
The Boys On The Rock

ぼくの肩に乗るピパは
足が一本かけている
だが ときおり
大声で泣くほかは
そこ等の蛙と大差は無い

ただ 知り合いの目利きによれば
それは伝説の金蟾(きんせん)なのだと
だから大事にしろと
ご丁寧にアドバイスをくれた
ふうん

だが こいつ
金蟾のくせに
ちっともぼくに財運を持ってこない
そのうえ
ときどきおしっこを漏らして
ぼくの肩を濡らすのだ

いいかげん アホらしくなって
手を切ろうとしていた矢先
やつは 近所の骨董屋にぼくを誘った
そこで やつは
劉海戯金蟾(りゅうかいぎきんせん)*の巻物に変化し
ガラスの鑑定台の上に飛び乗った
舐る目つきで値踏みする骨董屋主人の顔色が変わる
「お値打ち品ですね」と
お宝であることを断言し あまつさえ 
「よろしければ、うちで引き受けますよ」と
売りを勧めてきた
ここで初めて 奴の魂胆に気づく
夜離れしたぼくへ 蛙の自己アピール
と同時に切ない脅迫

お宝と分かれば みすみす
田舎の骨董屋に売っぱらう道理はなくて
そそくさと 店を出ると
いつのまにか 手にした巻物は消え
肩にはすまし顔の蛙

ちっ と舌打ちしたぼくを
少し悲しそうに覗き込んでいたやつは
すぐに お約束のファニーフェイスになって
ケロケロと鳴いた

たぶん
こいつと別れることはできないな と
心底 思わされたぼくだったが
そのことを この霊獣に悟られるのは癪だったので
3本足のお宝の蛙を
乱暴にGパンの尻ポケットに押し込んだ

尻ポケットのあたりがじんわりと濡れてくる

蝦蟇仙人ではないぼくに
アフリカ出身の金蟾が寄り添っている状況を
いまだ理解できないわけだが
Gパンのお尻が濡れた理由が
おしっこではないことぐらい
冷血漢のぼくにも わかっていた


*金蟾(きんせん)は三本足の金色の蛙。中国の蝦蟇仙人・劉海(りゅうかい)が金蟾と戯れると、金色の蛙は喜んで銭を吐いたという道教の伝説が「劉海戯金蟾(りゅうかいぎきんせん)」である。その図画は、特に財運の縁起物として中国では珍重される。


自由詩 劉海戯金蟾 Copyright The Boys On The Rock 2006-02-13 22:13:38
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