ショクヨウガエル
たもつ
「ショクヨウガエル」という物悲しい名前の蛙がいる
まるで人間に食べられるためだけに生まれてきたかのような名前の
体長十五〜二十cmにもなる巨大な蛙
正式な和名は「ウシガエル」
食用として輸入したものが野生化し
今や日本全国のほとんどに分布しているらしい
夏
ホタルをとりに行くと
闇を支配していたのは
きまってこのショクヨウガエルの低い鳴き声だった
時おり、車のタイヤが砂利を弾く音をたてるくらいで
現在の日本ではショクヨウガエルは
食材として一般的とはいえない
「食用」であるのにもかかわらずだ
それはそれでまた物悲しい
余談だが
捕まえたホタルは数日後に
虫かごのなかで
短い一生を終えた
少年は命というものを知り
自分に言い訳することを学んだ
それでも
思い出として美化する術を身に付けるには
もう少し年月が要った