水死体が歌うバラッド
金槌海豚

蔓長い水草の絡まりついた 手を叩き
水をたらふく吸って膨れ上がった 足を踏み鳴らす

「丘の裾野に咲き誇る
 キンポウゲの群生から
 花房一本嘴にくわえ
 夜露の空を飛び渡り
 あなたの窓辺に降り立って
 花房横たえガラスをつつく」

          「ガラスをつつく音色に震え
            窓を開けて外を見たなら
           あなたは既に飛び立った跡
             横たえ置かれた花房は
            青い花瓶に差しましょう
           黄色い笑みを浮かべながら」

水撒き散らす髪の毛を岩に叩きつけて 頭を振り
ぴちゃぴちゃとこぼれる泥水を舐めながら 舌を打ち鳴らす

「いつも変わらぬ日課のように
 今朝の窓辺に花を置く
 昨日の花もまた一昨日の花も
 そこに置かれて萎れているが
 あなたはきっとカバンを持って
 お出かけ中と思いたい」

           「今日から大事なお客様を
            私のお部屋へお招きして
          楽しい休暇を過ごしましょう
            その間、ほんのひととき
        ガラスをつつく音の聞こえぬよう
     カーテンを幾重にも閉めておきましょう」

泥水に満たされた肺腑いっぱいに 息を吸い込み
水を噴き出して途切れた虹を描いては 喉を打ち震わす

「積み置かれた花房たちは
 ふわふわとして気持ちよさげ
 このまま萎れてしまうくらなら
 僕の体もそこに横たえ
 翼だけ空へと飛ばしながら
 あなたの夢を見ていよう」

            「花瓶の花房うつむいて
          黄色い花びら落としています
           あなた来ぬかと窓を開けば
           窓辺に敷かれた花の寝床に
               丸裸の小鳥が倒れ
           空には飛び回る羽毛の人形」


自由詩 水死体が歌うバラッド Copyright 金槌海豚 2006-02-11 21:29:19
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