虚羽(うつわ)の天使 Ⅴ
木立 悟


未明に生まれ
未明にさまよい
座礁した言葉の虹のように
かがやく波紋の輪をひろげ
少しずつ闇に溶けながら
こだまの羽は夜を渡る
浜辺に立つ子の手のひらを拒み
さらにはばたきを増しながら
どこまでも黒い海をゆく
無数の光の矢に射抜かれてさえ
虚ろな羽は満ちてゆく
風に 声に 満ちてゆく


雲が太陽だけを隠し
急に空はひろくなる
何か巨大なものが消え去るような
奇妙な風の傾きに
多くの生きものが立ち止まり
空を隅々まで見つめ見わたす


何枚もの羽が重なり
白い蝋の色に固まり
羽の生えた逆さまの貝のようになり
ゆっくりと空を流れゆく
町をすぎ 家々をすぎ
音を聞くすべての子供を屋根へと誘い
虚ろなかたちは流れゆく
すべて壊れたものに乗って
自らを追ってくる鳥たちと子供を引き連れて
高みから更なる高みへと
虚ろな音はふりそそぐ
虚ろな羽はふりそそぐ





自由詩 虚羽(うつわ)の天使 Ⅴ Copyright 木立 悟 2004-01-31 06:45:32
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