凍夜
木立 悟





川の向こうにひろがる夜
水の社から来る音と
黒と青と金とが重なり
やわらかな生きものの胸を染める
暗く豊かな雨に導かれて
山は次々と雲のものになってゆく



たどり着く場所に飢えた闇が
手を振りかざし声をあげ
ざらざらとした風を起こす
陽の光は造られた生にはつらい
あらがわぬものは色あせ
あらがうものはひびわれてゆく



くすんだ空の白薔薇
月の周りを回る
溶け 解け 流れ
狩るものもなく咬み合わされる牙の
血の色のなかへと落ちてゆく
森を分ける砂の道には
水の腕を持つ生きものがいて
夜を映した鏡の身体をひらく










自由詩 凍夜 Copyright 木立 悟 2006-02-08 06:44:05
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