架空の春
塔野夏子

君の既視感を舞っているのは
紙製の蝶だよ
いちめんのなのはな と君は呟くけれど
此処はうち棄てられて久しい館の中庭
君が坐っているのは朽ちかけたベンチだよ
とうの昔に涸れた噴水の傍の

と 僕には思えるのだけれど
僕の見ている君はもはやただの既視感かもしれず
君の居る場所はいつのまにか
僕から遠くへだたっている
と いつだったか気づいたそんな気もする

君は紙製の蝶を追って
いちめんのなのはなのなかに消えてしまった
のかもしれないそんな気もする

此処はたぶん
うち棄てられて久しい館の中庭に
まちがいないと思うけれど
たぶん今は春でないはずで
ありもしない噴水のしぶきに
虹が見えるような気がするとしたら

それは此処にはもう居ないかもしれない
君のせいなんだろう たぶん





自由詩 架空の春 Copyright 塔野夏子 2006-02-07 22:45:00
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春のオブジェ