靴の底、水性の声
霜天

あの人は
そこが好きだと言っていた




いつも夏には水性で
書き残す言葉から消えていくものばかりで
うっすらと昇る、煙
焼けている靴の底から
縮んでいく
人たちは


確かめるために抱いた肩
そこからの、体温は
きっと、どこよりも遠い


長い坂道を下りきった後
何本にも迷いながら分かれていく道の根元で
右と左で、また明日、を使い分けながら別れる
帰り道はいつだって滞っていたし
角を折れれば滑るように落ちていった
間違えればどこにも届かない声
一つ目の角で振り返れば
あなたの溶けた後が水溜りになって
どこまでも続いている
それを見なかったことに、して
この街は、この街は
回っているんだよね、と

そしてそこからは僕が零れていく
あの時の角を左に折れていれば
きっとそこには一昨日があって



いつも、夏には
溶けては、残らない言葉ばかりが
急に暗くなっては僕らを叩いていくように
空から降り注いでいる
きっとそれは
何よりもやさしく


背中に張り付いたシャツの
感触がまだ、消えない
子供のころのいたずらみたいに
こびりついては
いつまでも消えてくれない

夏には、水性の
靴底から崩れていく僕の根元
あの日あの人は確かに
そこが好きだと言っていた
気がする




そして、左に折れて
僕も溶ける


自由詩 靴の底、水性の声 Copyright 霜天 2006-02-07 14:50:02
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