Blue is the Colour
岡部淳太郎

ひとつの了解からはじまる憂鬱。世界のすべ
ては青い色でぬられている。雨をはきだす雲
のありかである空、それも青ならば、雨その
ものも、青い水彩絵具にとけてふってくる。
人はみな、青にびしょぬれ。青にそめられて、
青い静脈だけをうきたたせて呼吸する。光の
散乱が、この地上に青い色をおくりこむだけ
の大気しか、われわれは呼吸することができ
ない。青をうつす微量の大気。そのなかで、
われわれは窒息する。昏倒する脳髄のなかで
みる夢は、またしても青だ。ためいきをもら
すほどに弱い者だけが、最後には正しい。

青こそが色。他の色は色ではないという思い
こみで、踏切から鋏をいれて線路をきりぬい
てゆく。他の星の空があんな色をしているな
ど、大きすぎる嘘に違いない。どの星の空も、
青か、あるいは闇。憂鬱と絶望のあいだでゆ
れうごく天命しか、われわれはもたない。信
号はいつでも青だから、そのままの速度で、
まっすぐにすすんでいくしかない。青を踏破
せよ。青をのみくだせ。われたガラスの煌め
きも青く、その青さをふみつけて、人は青い
血をながす。どこまでも青い人のいのち、そ
の糧も、青い魚や沈黙の争いの元にある。

ひとつの決定からはじまる道行き。機械は青
い唸り声を上げ、青い毒素を空気中にまきち
らす。液晶画面は青。人の瞳孔も青。当然の
ことながら海も青であり、虹でさえも、他の
色をうしないすべて青で統一される。光は産
卵する。青の卵。鳥は南国に限らずどの場所
でも、青い翼をひろげて飛ぶ。燦々と、青。
ふりそそぐ、青の思いのなかで、われわれは
重さをうしなって浮きあがる。あの青い空に
とけこんで、はるかな憂鬱のなかに眠る時が
やってきたのだ。青こそが色。人の生は、そ
して死でさえも、青い色に消えてゆく。強い
者は挫かれ、弱い者だけが最後には残る。




注 ―― タイトルはイギリスのポップ・バンドThe Beautiful Southの
     同名アルバム(一九九六年)から。
     ちなみに「colour」はイギリス英語。




(二〇〇五年十二月)


自由詩 Blue is the Colour Copyright 岡部淳太郎 2006-02-06 22:08:37
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