団地育ち
ZUZU

陽の当たる坂の上の
団地育ち
歩いて小学校に通い
バスで中学校に通い
自転車で高校に通う

川べりの大きな家の
女の子に恋をして
書いた手紙は
クラスで回し読み
団地の上の
貯水タンクのはしごを上り
夕焼け悔し泣き

団地の親友は転校し
大事にしてた
マンガを届けにいく
受け取ってくれずに
ぼくを嫌いなおばさんが
かわりにさよなら

もらったチケットで
先輩のコンサートへ出かけ
出会った女の子に恋をして
大事なレコードを
交換するために
待ち合わせ
はじめて入った
いまはもうない喫茶店

夏休みのラジオ体操で
親友に何年ぶりかに会う
なぜだか
目も合わせずに
おいちに、さんし
朝のラジオ体操

バスで出かけた
遠くの町のマンションで
女の子の親はいつも帰ってこない
急いだつもりはないのに
急いだように終わってしまった
あの子のいれてくれた
すっぱいレモンティー

団地の深夜の明かりは
机にうつぶせの
受験勉強とやら
ラジオの恋愛相談
アメリカイギリスの
最新ヒットソング
写真のあの子は
とっくにほかの誰かのもの

長い家出をはじめた
友達と楽器屋へ行き
ぼくはお年玉で
友達はバイトしたお金で
ギターを買う
ぼくは家を出る歌を歌いたがり
友達は家に帰る歌を歌いたがる

そしてぼくは家を出ることになり
友達は結婚して
親父さんの仕事を継ぐという
べつに、あいつのくちぐせ
すっかりうつっちまった
べつに、べつに
たいしたことじゃないのさ

引越しの日
自転車で川べりを走る
初恋の女の子は
あっけなくぼくを覚えていて
あら元気?と言っただけ
アッカンベーをしたかったけど
やっぱり
なんてきれいに見えて

陽の当たる坂の上の
団地育ち
いつものような歌をきき
いつものような恋をして
いつものような夢をみる





自由詩 団地育ち Copyright ZUZU 2006-02-06 19:48:07
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