ヘリウム
霜天

少しだけの眠りのつもりが
起きれば一人きりになっている
音楽室の隅、斜めに立ちながら
輪郭だけを残した人たちの足跡を
軽いステップ、かわしながら
半音、高いところを
やがてすり抜ける


そして僕らは
いつものように酸素が足りない
爪先へは、どこへも届かない
いちについて、の姿勢のまま
走り出していくばかり


冬も春も
咲く花の方向性に理由などなくて
量産される歌声に
耳を澄ませても笑い出してしまう
暖房の届かない音楽室の
反響する声という声
いつからか問いかけてくるけれど
それには答えないことで
答えている



音楽室には、窓がない
音楽室には地下室も、ない
半音、上がり続けていく空の
届いていくための声
そして僕らには酸素が足りない



 輪郭だけになってしまった人たちの
 ひとりひとりの半分だけを連れて帰る
 半分の影を引き摺りながら
 足跡を越える、練習をする
 いつも眠ることだけで
 置いていけるような気がしてた



いちに、ついて


留めたいはずの声が震えて
また明日、が
かたちにならない
半音、上がり続ける音楽室の
天井にはきっと制限がない
もっと軽くなるための
儀式の一つとして
君たちは今日も
眠る


高い、空へ
走るその、速さ


自由詩 ヘリウム Copyright 霜天 2006-02-05 01:25:46
notebook Home 戻る