一族
たもつ
一家全員がそろったのは
昨年の正月以来だろうか
兄嫁が妊娠したという話を聞くと
父はたいそう喜び
押入れからアルバムを取りだし
いつもの昔話をする
それは色あせた一枚の集合写真
四十人ほど写っているそのなかで
一番前列中央が祖父と祖母で
その膝に抱っこされているのが僕
父は十人兄弟の上から数えて六番目
何か一族の集まりだったのだろうが
誰もその理由を覚えていない
父が話すことといえば決まって祖父のことで
貧しかった農家に生まれたことから始まって
その類いまれなる頭のよさに
村をあげて旧制中学に行かせたことや
医者になってからのその赤髭先生ぶりまで
その話が始まると要領の良い妻はいつも
思い出したかのように用事を見つけては中座する
兄嫁はせっかくの父の喜びを壊したくないようで
何回も聞いたその話にふんふんと頷いている
兄と僕はそ知らぬ顔でテレビを見ていたりする
一族が写った色あせた集合写真
そこに写っている人間は
祖父母も含め何人かは他界してしまった
父の十人兄弟とその配偶者たちを忘れぬように
僕は時々その人たちを年齢順に並べる
床の中で眠りに入る直前や
満員電車に揺られながら
話はいよいよ佳境に入り
祖父が野口英世博士の講義を受けたところにまで及ぶと
ますます語る口調にも熱が入る
そんな父もだいぶ縮まってしまった
そういえば今年
写真の中の祖父の年齢を
超えることになる