家出少年
佐野権太

家出した
2軒先のオモチャ屋まで
所詮そのくらいの意気地

模型電車のガラスケース
豆電球が優しくて
何度も何度もトンネルを覗いた
眼鏡のオヤジが
オデコで睨むから
負け犬のように店を出た

ちりちりと舞う霧雨は
歩いても歩いても
濡らしてはくれない

どこへいこう

足どりは
回転数を間違えた
オモチャのマーチみたい
やっとこ やっとこ
しょんぼりだ

石の鳥居をくぐった
静かな場所へ

ときおりヒュンと走ってゆく風は
いじわるな旅人
声さえかけられない

枝葉からこぼれ落ちる雨音は
袋を開けそこねた銀玉
とても拾いきれない

唄ってよ
唄ってくれよ子守唄
オレンジに染めて
僕だけを染めて

賽銭箱に放り込んだ悲しみは
大きすぎてつっかかった


自由詩 家出少年 Copyright 佐野権太 2006-02-03 10:50:31
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