薬指の標本
蒸発王
また『薬指』を拾った
今月で3本目だ
白く細い
白魚のような指に
上品なシルバーのリングが
しゃん、と通してある
今まで拾った中で
一番美しい薬指だった
いつものように
丁寧にティッシュにくるんで
そっと家まで持ちかえる
戸棚から注射器を取りだし
爪と指の間から
防腐剤を注入
壁に立てかけてある
標本棚の扉を開けて
虫ピンで指を止める
こうして作られた
薬指の標本は
全部で22本になった
皆
それぞれの美しさを持つ薬指ばかりで
並べるとなかなか壮観だ
並び順を試行錯誤していると
ベルが鳴った
ドアを開けると
お雛様のような
さっぱりした顔の女性が立っていた
手には薬指が無い
やはり
いつもの様に
私は何も言わずに
薬指の標本を女性に見せると
彼女は
思いつめたように
さっき新しく加えたばかりの
あの一番美しい薬指を手に取り
新しい恋を見つけます
と
朗らかに笑った
私も
いつものように
良い恋を!
と言って送り出す
私の拾う薬指とは
つまり
そういうものである
彼女が帰って
薬指の標本は
21本になった
薬指を手放した女性は
まだ21人もいるのだ
彼女達が
一日でも早く
私の家へ薬指を取りに来てくれる事を祈っている
けれども
この薬指の標本が寂しくなるのを
少しだけ残念に思っている
外は
雨
寒くならないように
指袋を標本にかぶせた
『薬指の標本』