薬指の標本
蒸発王

また『薬指』を拾った
今月で3本目だ

白く細い
白魚のような指に
上品なシルバーのリングが
しゃん、と通してある
今まで拾った中で
一番美しい薬指だった


いつものように
丁寧にティッシュにくるんで
そっと家まで持ちかえる
戸棚から注射器を取りだし
爪と指の間から
防腐剤を注入
壁に立てかけてある
標本棚の扉を開けて
虫ピンで指を止める


こうして作られた
薬指の標本は
全部で22本になった

それぞれの美しさを持つ薬指ばかりで
並べるとなかなか壮観だ


並び順を試行錯誤していると
ベルが鳴った


ドアを開けると
お雛様のような
さっぱりした顔の女性が立っていた
手には薬指が無い


やはり
いつもの様に
私は何も言わずに
薬指の標本を女性に見せると
彼女は
思いつめたように
さっき新しく加えたばかりの
あの一番美しい薬指を手に取り

新しい恋を見つけます

朗らかに笑った


私も
いつものように

良い恋を!

と言って送り出す


私の拾う薬指とは
つまり
そういうものである



彼女が帰って
薬指の標本は
21本になった
薬指を手放した女性は
まだ21人もいるのだ


彼女達が
一日でも早く
私の家へ薬指を取りに来てくれる事を祈っている
けれども
この薬指の標本が寂しくなるのを
少しだけ残念に思っている



外は

寒くならないように
指袋を標本にかぶせた




『薬指の標本』









自由詩 薬指の標本 Copyright 蒸発王 2006-02-02 17:10:05
notebook Home 戻る  過去 未来