雪夜のステップ
銀猫

季節外れのマリーナの隅に
ON AIRのオレンジのサイン
夜はそこにだけピンライトを当てる


思いのほか雪は強くなり
ラジオ局で流す古いジャズが
熱く火照って静かを乱す

厚い硝子を一枚を隔て
それはマイクに向けた口元を
無声映画のシーンに見せた

明るく努めるパーソナリティーの横では
片耳にヘッドフォンを当てながら
ニットのキャップが音拾いに勤しむ



 スウィング

      スウィング

 
   マフラーも短く揺れて

    サミーデイビスジュニア

       ジョニージェイムス


空気は何処となくウィスキーの匂い

真夜中に詰め込んだ低い雲のうえで

ほろ酔いのベテルギウスが
神話を赤く語る


      スウィング

  スウィング


一夜限りの
緩やかなステップだから
靴音は密やかに


 まだ
   雪

   闇に
     雪





自由詩 雪夜のステップ Copyright 銀猫 2006-02-02 15:19:03
notebook Home 戻る  過去 未来