虚羽(うつわ)の天使 Ⅲ
木立 悟


空へ落ちてゆく崖の前で
両腕をひろげなりひびく天使
すべての色が
すべての景が声になる
ひろげた両腕は
ひとつの陽に触れる
もうひとつの陽に触れる
西から来る無数の水無月を受けとめる


すべて壊れたものに乗って
羽は夜の実を震わせる
独りの水に音が満ちて
光のなかの無を受け入れるとき
問いのなかに
答えのなかに
夜の実は落ちてくる


水の壁を越え
夜の壁を越え
いくつもの蜘蛛が消えてゆくとき
大きすぎるかがやきと
多すぎるかがやきが出会い
いくつもの影が散ってゆくとき
星を映した虚ろな羽は
問いのなかにも答えのなかにも落ち得なかった
ただひとつの夜を植えてゆく





自由詩 虚羽(うつわ)の天使 Ⅲ Copyright 木立 悟 2004-01-29 11:28:34
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