幼年期の情景 〜アルバムの中に〜
服部 剛
カレンダーを一枚めくり
二月の出かける日に ○ をつける
数秒瞳を閉じる間に過ぎてしまう
早足な一月の流れ
数日前話した八十過ぎの老婆の言葉
「 あんた三十歳?
私の歳まで あっ という間だよ 」
机の上に置かれた古いアルバムを開くと
二十五年前の幼稚園の庭
午後の陽射しの下で
青い帽子をかぶった小さい僕は
友達と手をつないで走っている
はしゃぎ声が聞こえてくる
椅子に座り日向ぼっこする保母さん
嬉しそうに僕等を見守っている
( 瞳を閉じて
( 大人になった僕は無人の懐かしい庭に立つと
( 幼い頃に走り回った庭は不思議と狭くなっていた
アルバムの次のページを開くと
引っ越したばかりの我が家の庭で
若々しい親父と母ちゃんの下に並び
頭を撫でられている小さい姉と僕
遠い幼少の日々を越えて見つめ合う
大人になって濁った僕の瞳と
二人の無邪気に笑う瞳
アルバムを閉じてテーブルの上に置く
今頃
北国に嫁いだ姉は
銀世界の夜に灯る窓の明かりの中で
夫の仕事帰りを待ちながら頬杖ついて
美味しそうにご飯を食べる五歳の娘を
いつかの自分の姿を重ねるように眺めているだろう
実家の台所では
六十過ぎの母ちゃんが洗った茶碗を
隣で僕は拭き
一番大きい自分の茶碗を下にして
親父の・母ちゃんのと順に重ねる
二階で鼾をかいて寝ている親父は
幼い僕を肩車していた頃の
夢を見ている