Never For Ever
クリ

 クリック。

「へえ、おまえの好みはこんな娘なのか?」
「っていうわけでもない。デフォルトの唇を少し薄くして、斜視気味にしただけ」
「ほんとに?」
「あんまり手は加えてないよ」
「なんだか誰かに似てないわけでもないな。ほらっ…」
「詮索しなくていいから、喋ってみる?」
「いいよ。おまえが話をするのを聞いてるから」
「分かった。じゃあ」

「こんにちは」
『…』
「どうしたの? 二日酔い? 目も真っ赤だし」
『…分からないの? そうよね。何日も恋人を独りぼっちにして平気な人には、分かるわけないわよね』
「君は、何か重大な勘違いをしているんだよ。それ以上君がおかしなことを言うのなら、悲しいけど、君を初期化、…っていうか、なんて言ったらいいか」
『これ、見える?』
「…? やめろ!」

「どうしたんだよ、強制終了なんかして、何を持ってたんだ、彼女?」
「ナイフ。手首に当ててた」
「自殺かよ。AIがそこまで思い込むのか?」
「彼女は自分が仮想現実の中のAIだとは知らない。というか、理解できないんだ」
「何でだよ」
「ヴァーチャルを自覚した途端に、様々な矛盾を容認できなくなるからさ。デジタルで線形だからさ」
「要するに、自分がヴァーチャルではないということが大前提というわけ、か?」
「そう、自覚しないことが"意識"の基本」
「でもなー、自殺を計るAIって、聞いたことないぞ」
「ウィルスだと思う。スキャンしても複雑過ぎて分からない」
「どうするんだよ、ちょっとは可哀想だろう。仮想とはいえ、感情もあるんだし」
「もう起動しない」
「…」
「すべてのファイルを削除する」
「後悔しないのか?」
「その方が、彼女のためでもある」
「…」
 クリック。

『見た? 真っ青な顔してたわよ、彼』
『あのくらい驚かさなきゃだめよ。男って鈍感だから』
『AIのバージョンが古いんじゃないの。最新のやつ、これ?』
『あったりまえでしょっ。高かったのよ〜、お陰で金欠よ』
『ねぇ、コピーさせてよ』
『ダメだってば』
『ケチッ』
 クリック。

…っていうストーリーはどうかな。もっとひとひねりする?



   下のボタンをクリックすると、あなたは削除されます


散文(批評随筆小説等) Never For Ever Copyright クリ 2004-01-28 01:04:34
notebook Home 戻る