当麻完二

母を生む私は
言葉足らずであるけれど
父の死後つまらないことを言うようになった

海が蒼いだとか
空を飛びたいだとか
彼が好きや
道端をずっと見ていたり

など

死ぬまでにしたいことを考えると
思い当たることはいくつもあり
母を育てるまでは死ねないと思うそれも
その中に入っている

紅色の袋のハクキンカイロが父の形見で
母はそれを私にくれた。

薄汚れたそれは
死ぬまでずっと持っていたいものとなり
彼の肩を抱く夜も
母と食事をする晩も
思い続ける

そしてそれは
いつからか
ずっとずっと死んでからも
彼や母や父の傍で思い続けるんだと今は思う

長い夜で
私は寝ようと
床に入る

泣き声が
おぎゃあと
泣くので
少し体を動かし
私も
おぎゃあと
泣く

私の布団がまた
濡れてしまう


自由詩 Copyright 当麻完二 2006-01-22 19:11:54
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