【 僕と浮浪者 】
豊嶋祐匠















街を車で
走っていた時だ




コンクリートの
道端を

ひとりの浮浪者が
歩いていた




ぺしゃんこの
ダンボールを
脇に抱え

真夏に
長袖のボロボロの
シャツを着て

とぼとぼと

とぼとぼと

人生を
諦めた様子で

歩いていた




僕は

わき見に
気をつけながら

その先の赤信号で
車を止めると


あの放浪者が
ゆっくりと

僕の車を
追い抜いて行った




「可愛そうに」


そんな言葉を
哀れみの心に
呟きながら

放浪者の
横を素通りして

スピードを上げていった




次の赤信号で
車を止めると

あの放浪者が
また

僕の車を
追い抜いて
行こうとしている

とぼとぼと

とぼとぼと

変わらぬ
憂いだ様子で

僕の車を
追い抜いて行った




彼がなぜ

あんなに
見窄らしくなって
しまったのかは

解らない



ただ

ひとつだけ
不思議なことを思う




少なくとも

放浪者と
僕は

同じ時間の中

この同じ
瞬間の中で共に生き

共に同じ方向に
向かって
生き続けている




二人の
生きざまが
どうであろうと

放浪者と
僕が

同じ瞬間を
生きている事は

確かだ




なぜ僕は
あの放浪者ではなく

なぜ放浪者は、

車に乗った
僕じゃないのだろうか?





何かが
違ったにしても


共に同じ方向に
生きている以上


放浪者と
僕において


逆の立場が
有り得ないとは

けして思う事ができなかった。















未詩・独白 【 僕と浮浪者 】 Copyright 豊嶋祐匠 2006-01-22 16:03:16
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