金(キム)
馬野ミキ

正月に日本酒を飲みながら詩を書いていたら
火曜日に詩を教えているキムからskymailがきた


「幹さんやばいっす、オレ犯罪犯しちゃいそうです」
『ちゃんと詳しく説明してミソ』
「ちんこがもうずっと起ってて、おさまらなくてヤバいっす」
『オナニーすれw』
「無理やりするのは、女の子がかわいそうで出来ないっす。。」


それから俺は灰皿のなかにある一番長いシケモクに火をつけて深く息を吸い込み
アンドロメダ大星雲のようなかたちをした天井のしみをぼんやり眺めてから
そうして煙を吐き出す
メールを返した


『お前はアホかっ!
空想と現実を一緒にすんな!
空想では何してもいいんだよ!
いきなり付き合ってたり、家が隣で幼馴染とか都合のいいシチュエーション想定したり
好きな格好に1秒で着替えさせたり、未成年とやったり、十字架に吊るしたり売買したり
何してもいいんだよ!
空想なんだから!
お前が黙っときゃ誰も分からんから。
キム!
作った嘘の空想の世界に集中してとっととオナるんだboy!
そして帰ってくるんだ!
お前のたまに、そういうメールはとても迷惑だ
迷惑メールだ
俺はいま詩を書いててとても忙しいんだよ!』


それから俺は再び詩を描きはじめた

おお
我らがオリュンポスの神々よ
光と闇と一切なるものよ
静寂なる青の情景とペニスの不在みたいなものよ
我々をこのドグマから

そこまで書いてまたメールが来た

「幹さん、オレ幹さんみたいに頭よくなくて、馬鹿ですけ、そんな想像力無いんで出来ないっス。
幹さん、お願いですけ手伝ってください」



稀月
木棚
究極
菊花


俺はいよいよ電話をかけた
来月の詩学の連載を邪魔されている

『いい加減にしろボケ!
俺は今詩ぃ書いてんだよ!
ミューズが逃げただろうがこのだらずがっ!』




        幹さん、
         オレ もう いま
        妹の部屋のノブに手をかけてす
       たすけてくた゛さい





だらずかいっ!
それを空想ですっだがな!
逆だがな逆!
何でお前は常に真逆なものを内包しとっだい!
お前は詩か!
詩そのものかっ!






      いもうとと Hなんて、 空想 でも できんス








俺はオリュンポスを破壊して1つ知ったことがある
靴下のままアパートを飛び出してチャリキにまたがると
親と一緒に住んでいるという足立区のキムの実家を目指した
チャリキの鍵はつけたままだったがペダルはぐんぐんと回転した
鍵は常に心のなかにあるのだ
キムがコトを起こさぬように俺は携帯でしゃべり続けた


『ええかキム!
俺がしゃぶったるけぇ!
そこでそのまま待機すっだーぞ!
間違ってもそのドアのノブを廻すな!
俺は男だけ、どがんしたら気持ちようなるかよう知っとるけぇ!
大丈夫だけ、俺に身を任せたらえーけ!
俺がすっごい気持ちようしたるけぇな!』


携帯越しにキムは詩の朗読をはじめていた
あんなにシャイで恥ずかしがりやだったのに
今では泡を吹きながらではあるけれど堂々とステージをこなしている
キムの生まれて初めての詩の朗読会だ
きっとキムは瞳孔を精一杯広げてすべての毛穴から液体を垂れ流していただろう
きっとそうだ、俺だって
ここが環七か環八か環百なのかだって分からないんだから
水溜りのアメンボを前輪と後輪で踏み潰す
世界中そうだ
泣いているのだ。


自由詩 金(キム) Copyright 馬野ミキ 2006-01-22 03:12:08
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