フラウ バウムクーヘン
木葉 揺

一人では 歩けない
二人でも 歩けない

ああ、だけど
会いたかったよ、新宿
十代で家を出て
キャバ嬢とかやりたかった

紅茶の湯気ふわふわ
「通貨が統一になるんですって」と
パンを焼く母の声
「マルクは強いのになぁ」と
新聞ごしの父の声

受験勉強のお供に
バウムクーヘン
一枚一枚はがして食べた
入学したら
文法覚えて
いつのまにか留学

ハンブルクのレーパーバーン
地元の日本企業の男性の車で
ふざけ半分に近づいた
「女人立ち入り禁止区域」

そっと忍び込んだ午後
連なるガラスの部屋に
下着姿の金髪の
お姉さんたちを見た

二十歳の夏


あのとき
バウムクーヘンの箱を
壊す力さえあれば
ユーロがどう動いたって
今頃、私は歌舞伎町を

店が開き始めたら
視線だけ残してJRに向かう
カチリとしたスーツ姿
小脇に会議の資料抱えて

ふとユーハイムに立ち寄りたくなった


自由詩 フラウ バウムクーヘン Copyright 木葉 揺 2006-01-18 00:16:51
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