チョーカー
遊羽


『チョーカー』

夕暮れの曲がった光の下に
懐かしい人を見かける
違う髪 違う服
違う姿に香り立つ
記憶の仄かな糸がよじれて
やっと点灯した夏の夕暮れ
懐かしい人
今 じっと固唾を呑んで
後ろ姿を見つめている
どうか振り向かないでくれと
胸の中 黒い花が咲く

十数年の隔たりは
漸く昔日の事なりと
語りかける後ろ姿
その影形さえも
違うものになっていた
冷やゝかで透明な夏の瞬間
落ちてゆく打ち上げ花火を追うような
視線は逸らすことさえ許されず
女の背中を直視する
その先に見えるなだらかな曲線は
想像もし難き十数年を背負っていた
違う何かをたくさん背負って
途切れた画像は
全く違うシーンへと飛ばされ
普通すぎる日常の偶然の接点に
自分の背中が負うべきだった
何かに欠けている事を知る

女の背中は
深い記憶への扉となり
繰り返される思考が
目に見えぬ法則をわざとらしく思い出し
反転をし始める
取り返しのつかぬ十数年の隔たりを
銀色のチョーカーが
重く呟きかけていた
以前よりずっと
細くなった首筋に
似合わぬほどのチョーカーの大きさが
まだ何も背負わずにすんだ
かの頃の首筋を饒舌に語り始めそうで
思わず目を逸らしてしまった



自由詩 チョーカー Copyright 遊羽 2003-07-16 00:41:17
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