チェジ
ピッピ

チェジはかわいい
あたしたちの街の中では世界一の女ということになっている
かわいいの次元を越えた、とマイカは言い
スヌーピーの鼻をへし折るかわいさ、とハイリは言った


チェジの腕はいつも傷だらけだけど、誰も理由をきかない
チェジの悩みはみんなで解決しているし、
それに伴う悩みはどうしようもないから
チェジは一回街の奴らを全員パーで殴ったことがある
チェジがそうしたいと呟いたからだ
その時もみんなにこにこへらへらしていた
チェジはそういう子だった
三本目の腕が欲しい、太いやつ、とよくチェジは言った


チェジには夫が三人いた
年齢的にも人数的にも違法だったけどそれをみんな赦していた
更に言えば三人で済むのが不思議だと誰もが思っていた
三人のうち二人は姿を表さなかった
チェジがよく口にするのは3番目の夫で
3番目だから3と呼んでいる、と言った
3はいつも傷だらけで暗い顔をしていて、
チェジはそいつが大嫌いで、
そいつがいるから他のものをどうにか愛せる、と嬉嬉として言った
名前をチェジにきいたらわからない、と言った
あとの二人をチェジはとても愛している、と言っていたけれど
昼間連れて歩いているのは一番目の夫だけだった


チェジは歌をよく歌い、戦争を二、三回止めた


チェジの手は柔らかい
誰もがチェジの手を触ろうとして
誰もがチェジの手を離すと寂しそうな顔をする
手を離すときにチェジはにこっと笑って
私のこと忘れないでね、と言う
どこにも消えないのに
どこにも消えないはずなのに


チェジは頭を撫でられるのを嫌がり
人の頭を撫でるのがとても好きだ
チェジに撫でられるとみんな変な顔をしてどうもありがとうと言う
チェジは神様みたい
仏の顔も三度までだけど
チェジの頭は一度もダメ
いい匂いなのに 今日も蝶だけがチェジの頭に触れるのを許されている


チェジに欠点はない
あるとすればかわいすぎるところ
かわいすぎて電車が止まったりするところ
でもだれも困ってない


チェジには夫以外の家族がいない
名前はチェジが自分でつけた
自分の好きな文字を並べただけ、とチェジは笑った
あたしたちの国のことばで「太陽」という意味だった


チェジの話はまだまだたくさんある
でもチェジは自分の話をあまりしたがらない




未詩・独白 チェジ Copyright ピッピ 2006-01-16 01:42:20
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