白昼夢
e R i

ベビィパウダァ、ミルクのにおい
真っ白なヴァニラ
アナタをやさしく包むふかふかのタオルケット
甘い甘いハニークッキーを焼いて
小さなお昼寝空間に溶け込む
とくとくと波打つ心臓の音
流れるように繰り返される夢の旅路

淡い年月のほんの一瞬の光

不意にぎゅっと空をつかもうとするその仕草に
思わず手を伸ばした
握られた指先から伝わる体温
ほころぶ口元から零れた吐息
名前の付けられない感情がただ咲き誇る

やさしい光に、極彩の現実

細い針金で出来た静かな時計で
昨日と今日が追いかけっこをして明日に染まる
シルバァのやかんがしゅわしゃわとお喋りを始める頃
アタシはそっとお昼寝空間から現実へかえる

さらりと揺れたタオルケットの振動に
夢が現実にふらりと近づいたようで
ゆっくりと寝返りを打って
目覚めようとしている夢を
無理やり現実から遠ざけて
そのお昼寝空間にい続けようと
小さな抵抗を試みている

ふかふかのタオルケットから、いつの間にかつま先が少し飛び出ていて

その空間があまりにもいとおしくて
胸が苦しくなる
せつなさとこうふくがいっしょくたになって
足元から崩れ落ちそうになる
カーテンがゆらゆらと影を遮って
バタァクリィムのとける温度をこえる

温まりすぎたミルクがふつふつと空気に消えてゆく音だけがキレイ

コンロをカチリと消す気配にはっとする
涙をすくうキスにまた涙が溢れる
寝ぼけた笑顔でふにゃりと笑って
やさしく髪を撫でる仕草にバツが悪くなる
コーヒーカップに注がれたミルクに
逃げ込んでしまいたくなって
いすの上で小さく体育座りを決め込む

虹色の袖口が居心地悪そうにコーヒーカップを包む

今までアナタを包んでいたタオルケットが
淡い光の中、置き去りにされて
ハニークッキーの甘さに揺られながら
甘い甘い夢を紡いだ白さにとけた

ベビィパウダァ、ミルクのにおい
真っ白なヴァニラ

アナタとアタシの、小さなお昼夢ものがたり


自由詩 白昼夢 Copyright e R i 2006-01-14 17:44:11
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