月のもの
石畑由紀子

台所で玉子を割り
箸で溶いて
フライパンでバターとからめた


食卓であなたと向かい合い
それを口にふくんだ時 はじめて
涙が溢れてきた
  (お前も卵にはなれなかったのだね)


レースのカーテンが風を孕んで
踊っている


欲情のその先に
あの小さな手のひらがあると信じていた
あなたを愛している
それだけ
ただそれだけでいいというあまりに膨大な
かなしみの淵に今
立っている


十五夜
月のものがやってきた私に
あなたは静かに入ってくる
卵を抱けなかった血液を
いつくしむように





自由詩 月のもの Copyright 石畑由紀子 2004-01-24 23:32:16
notebook Home 戻る