降り来る言葉 XXI
木立 悟





朝の海には光しかなく
頂をすぎる風
うすい雲を呼吸するものには
既にそれは海ではなく
折りめ正しい紙の翼の
つけ根に震える飛べない心


枯れ葉の熱に渦まく白金
土が持つ光のひび割れが
緑のかけらに分かれてゆく日
鉛は草の路のはた
したたる音を見つめている


あせた土から飛び立つ羽が
あせた色を皆持ち去って
水に触れては生まれる水
無垢な心を孕ませてゆく


高く高く遠去かり
何日も何日も戻らぬ陽
月を隠した雲の底
光は叫び こだまして
地からは分からぬ重なりを
円錐の世に乗せてゆく


このかたちは手のかたち
血の色の手を抱くかたち
血のそのままを抱くかたち
流れ落ちても消えつづけても
ふたたび抄う手のかたち


光は糸を吐いてはほどけ
さらに明るい光となって
山に川に雲にあふれ
孕みつづけるものたちの列を
波のように通りすぎ
水の無い土地へとたどり着き
新たな海になってゆく


頂の霧の球が割れ
山すそを流れ落ちてゆく
頂には金の火のけだものがいて
草の姿をした
草ではない生きものが
岩や砂や土や鉱
石になれない骨たちに触れ
ありのままをただ祝うのを見る







自由詩 降り来る言葉 XXI Copyright 木立 悟 2006-01-13 21:50:23
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