病院
前田ふむふむ

 五つの黒い眼のドアのある病院で
受付の詩の入門書が体温計を持って来て、僕に質問した。
(今日は何処の引き出しが悪いのですか。
三番目が少し痛いので、先生に診て貰いたいのです。
(それでは、体温計を三番目の引き出しに入れて
                  お待ちください。
病院はたくさんの患者で混雑していた。
待合室に腰を下ろすと、
右隣では太陽が足を折って、松葉杖をついている。
左隣では月が火傷をしている。
前の方では、青い海が40度の熱を出して、
苦しいと唸っている。
森の小鳥が鳴いていない。躁鬱病かしら。
山はあまり形容詞を食べ過ぎたので、
お腹を壊して、精密検査を受けるらしい。
悲惨だな。あまり詩人が暗喩や直喩を使って、
あり得ない無理を言うから、
皆具合が悪くなっている。大変だな。
胎児を包む爛れた水彩画も辛そうに唸っているが、
ああ、生まれそうだ。
僕は二番目の引き出しから少年の思い出の時計を
出してみたら、一時間以上、待たされている。
随分と待つ病院だな。
そこへ、漢字をひらがなに変換する看護師が来て、
少し暑いのでひかりの眼が付いている窓に
取り付けてある皮膚を下ろして、暑さを和らげた。
18番の方、どうぞ。
ああ、やっと僕の番だ。
僕は、診察室にはいると、太った百科事典の先生が、
難しい顔をして診察した。
(三番目の引き出しは少し熱があるな。
(三番目の引き出しを整理して句読点だけにするように。
(余計な言葉が入っているから、入らない注射をします。
(それと、一番目の引き出しのボールペンは交換して、
(原稿用紙を補充して置きましょう。
(四番目の引き出しの中の暗喩が、殆ど無いですね。
(これが無いと良い詩は書けませんから、無くなったら、
                    すぐ来てください。
はい。わかりました。
(五番目の引き出しの中の直喩も、補充して置きましょう。
(常に、引き出しの中のバランスを考えながら、使いなさい。
(一通り薬を処方しましたので安心してください。
はい。
それと、先生、「 」も欲しいのですが。
(分かりました処方しておきましょう。
有難うございました。

診察が終わると、注射が効いてきたのか、
三番目の引き出しが痛くない。
安心して帰るところだが、実をいうと僕はこの病院に
入院しているのである。
早く、通院にしたいのだが、なかなか難しい。
兎に角、夜も更けたので、寝ることにしよう。





自由詩 病院 Copyright 前田ふむふむ 2006-01-13 19:22:08
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