水花火
コトリ
紫陽花の頃
手をつないで買った気早な花火に
火を点すことは結局なかった
意地をはる間に夏は去り
空は遠のき
てのひらはかじかむ
(恋は続いていた)
目印か
呪いのような
燃え損ねた花火
捨ててしまおう
来年が つぎの夏がきたとしても
とうに 湿気ている
(恋は続いていた)
念のため
花火の束にシャワーを浴びせた
手間をかけずに
水を張ったバケツにでも
浸しておけばよかったのに
それについては
なぜだろう
わからない いまでも
暖かなシャワーに
色とりどりの塗料が溶けだす
オレンジの水滴は頬にはねた
黄色が 赤が 青が緑が 真白の浴槽に飛び散り
指先も染まる
色が、色が、空中でぶつかりあう まざりあう
炎の輝きなんて程遠い
安っぽい塗料のショウ
お葬式のようだ、と
目をつむった
(恋は続いていた)