えのきだけ
佐野権太
いったい誰がどうして落としたのか
道端にポツンと淋しくひと袋
飽食なこの国の片隅に置き去りの
真っ白な「えのきだけ」
その宿命をまっとうできないまま
秋風にさらされて
さぞ寒かろう さぞ無念であろう
しかし僕もまた
見て見ぬふりをする
これが猫ならどうなのか
これが人ならどうなのか
答えを出すのが恐くてなって
家路を急いだ
食卓の真ん中
ドッシリと据えられた鍋
僕はひらめきと焦りを内に秘め
鍋の蓋を開けて必死に箸で具を探る
その刹那
君が計ったように口を開く
(今日さぁ・・・
もくもくと立ち昇る湯気の向こうに
僕は能天気な犯人をみた