内なるチカテツ
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「タンポポまるかじりー」というセリフが何の漫画に出てきたのか思い出せなかった日
たとえば夜中にひとり歩くと
暗闇がとてつもなく怖いもののように感じてしまう
野生のチカテツが草むらの影からこちらを伺っているような気がして
早足になってしまうんだ
あいつは闇を雇っている
だが俺が駅員か幽霊になれば
そんないわれのない恐怖はなくなるのだろうか?
「糞、おどかすな」
通気孔や
アナウンスよりも
切符や
ブレーキで
言ってみせろ
俺には名前がある
だからそれ以外の何者でもない
喰いかかるのは名前も顔もない巨大なチカテツ
それはよどみのないセンチメンタルになって
俺はまっしぐらに真っ暗闇
チカテツは浸食する
チカテツは増殖する
──反転したガードレールの向こう側から小さな時刻表が覗いている!
怯えているのは
怯えているのはどっちだ
実際
すべてのチカテツは孤独なんだ
嘘だと思うならそこの公衆電話から電話をかけてみろよ
嬉しそうに菓子折りを持って
俺たちを迎えに来てくれる
そして俺たちは抱きしめようとするけれど
轢かれてしまう
チカテツ!とつぶやきながら死ぬ
チカテツは誰とも遊べない
ゲームもキャッチボールもできない
暗闇の中で地面が消える
俺は心臓で泣く