彼と彼女のボストン
紀ノ川つかさ

それは十二月二十四日のこと
日々忙しい二人も、この日だけは会おうと
どうにか予定を空けて待ち合わせた
場所が学生街も近い高田馬場とはいえ
こぎれいな店はどこも予約で一杯で
二人はしかたなくファミレスに入った
気取ってちょっと高めのステーキを注文
ところが出てきたものときたら
肉はともかくスープはお湯みたいなコンソメで
しかもつけ合せはモヤシ炒め
スーパーでのモヤシの安さを知っている二人は
まるで要領の悪い自分達が笑われているように感じた
せっかく今日の日、会えたというのに
二人はケーキでも食べようと
駅前にある「ボストン」という喫茶店に入った
大きなガラス窓から見える店内は温かそうだったし
看板にもケーキ専門店と書いてある
二人はごく普通の、いちごのショートケーキを頼んだ
あらゆることが普通に終わりそうだったけど
その方がいいと思っていた
今日が何の日かなんて考えない方がいい
でも運ばれてきたケーキを見ると
小さなひいらぎの葉が飾られてあった
それだけで、ショートケーキの表情がまるで違うのに
二人は驚いて
今日はやはりちょっと特別な日なのだと
苦笑いをした
幸せとはケーキに飾る
一枚の葉のようなもの

一年のうちで一番ケーキが似合う日
この店が迎える最後のクリスマスに
訪れた二人のお話でした


       高田馬場「ボストン」
       レンタルスペースがあり、ポエトリーイベント「過渡期ナイト」が
       幾度も開催された場所
       2004年1月21日閉店



自由詩 彼と彼女のボストン Copyright 紀ノ川つかさ 2004-01-24 00:07:43
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