牡丹雪
日和

牡丹雪の日は君を迎えに行く
傘は持ってゆかない
いつだって
君は雪を掴もうと傘を飛び出してゆくから

町の街灯の下で
やさしい君が待っている
ひっそりと
ゆるやかな呼吸をしながら私を待っている

そうやっていつも
やさしく空気をみながら
ちいさな身体で伸びをして
全身に
やさしく酸素を送り出している

酸素を
二酸化炭素にかえていく
全身で

そんな単純なことを 君は
精一杯 せいいっぱいに
何か 大切なものを包み込んで放すように
何か とても大切なことのように
やってのける
そうして
酸素をめぐらせていく
全身のあらゆる器官を駆使して

冬のつめたい空気のなかで
君はその頬を染めて やさしく肩をふるわす
フィラメントのような髪が揺れる
ほぅ ほぅ と
吐き出し方さえやさしい
君を取り巻く空気が すべて泣いているかのようだ
「そんな君が僕はすきだ」

牡丹雪が睫毛に積もっていく
牡丹雪が睫毛に積もっていく

牡丹雪は言い訳
やさしい君が とりわけやさしく見えるから
君を迎える前の 一瞬の出来事
君に気付かれる前の 一瞬の君の呼吸が見たくて

駆け出さない
私のつたない吐息の向こうで やさしい君が待っているから


自由詩 牡丹雪 Copyright 日和 2006-01-06 20:36:38
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