キリコ遠く(改)
AB(なかほど)

 今年の鮎う ちっこおてえ、
 
 夕方
 小さい頃から毎年聞かされてきた
 親父の秋を告げる声

 ここ数年は

 空港工事で もう釣れんわいね
 
 と続く


 車で2時間の街に住んでて
 毎週末には帰ってくればいいのに
 元気な顔で帰ってくればいいのに
 それは判ってるけど
 帰るときにはいつも自分であきれるほどの
 疲れきった甘ったれで
 労いの言葉を待っている

 そんなこと
 親父には
 ましてやお袋には
 手にとるようにわかってるのだろう


 とくに変わり映えのない夕食をしてると
 テレビのローカル・コマーシャルで

 もう 帰ってきたら
 
 と優しい声のナレーションが流れ
 庭の虫の音



 駅い 行こか
 
 ビールの他に
 なんやら冷蔵庫にあるものを押し込んで
 親父は先に歩いていく

 この春に廃線になった鉄道の無人駅が
 集落の裏手の高台に
 まだ名残惜しそうに佇んでいて
 お昼や3時過ぎには
 農作業の休憩をとるおばさんが
 いまだによく利用しているらしい

 農協牛乳のベンチに座って
 ビールを開ける

 遠くにはいくつもの入り江があって
 祭りの灯りが
 あちらこちらで
 まるでいつもの漁火が
 急に浜に打ち上げられ近づいたように見える


 今年の鮎う ちっこおてえ、
 
 まだ悔しいふりをしながら言っている
 のを聞き流しながら

 ああ あじずし、なつかしい
 
 と僕はたぶん毎年言っている

 この山椒の葉 やっぱり辛い
 
 って

 言いたいことも
 わかってるさ
 もうその背中も小さくなってしまったことも

 車で2時間なのに
 毎週末には帰ってくればいいのに
 元気な顔で帰ってくればいいのに



 街にい 何があらん
 
 まだ漁師だった親父が
 十八の僕に言ったこと


 まだ判らない
 まだ見つからない
 たぶんないのかもしれない
 けど
 まだ逃げ出せない
 まだ諦めきれない
 まだ



 父ちゃん 来年またこっからあ
 キリコ 見よう

 ああ でっけえ鮎とってえ
 一番辛くて臭いい あじずし喰ってえ、、
 ほんでえ、、

     母ちゃん喜ばせ

 
 ああ やっぱり辛い
  


 廃線に 祭の灯 

       潮の風

    
 
 辛い









自由詩 キリコ遠く(改) Copyright AB(なかほど) 2004-01-23 02:56:29
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