ジパング
たもつ



母さんは夜なべをしていたけれど
手袋の類は編んでくれなかった
やがていつものようにフジヤマがやって来ると
腕相撲やカードの相手をし
それでも決してゲイシャ・ガールみたいに
振舞うことは無かった

その間少し離れたところで
僕は計算ドリルを三ページ進め
それから国語の教科書も上手に朗読した
ボンはお勉強家さんやなあ
フジヤマは何度か声をかけてきたが
僕はスシもテンプラもひどく不得意だった

もうお休みなさい
母さんの言葉に目を閉じる
どこか遠くから空襲警報のサイレンが聞こえ
瞼の向こうにある灯りはすべて消えていった

翌朝、というには
あまりに昔のことのような気がする
母さんと僕の亡骸が
誰もいないジパングの焦土に打ち上げられたのは




自由詩 ジパング Copyright たもつ 2006-01-05 20:13:55
notebook Home 戻る