おもちちち
yangjah

この前の冬はおもちを毎日食べた
おもちを食べると
おちちの出がよくなるそうな
わたしにまだ赤子はいない

街へとつながる列車が途切れた日の夜
あたらしいいのちが
友だちのカラダを通って来た
足からこの世に現れた
きっと大地に根ざした子になる

「おもち食べや〜」
毎朝声をかけてくれる人は
生まれた時からわたしにはいない
おじいちゃんのような人
いつのまにかこの地は
春を飛び越えて
熱帯を思わせる初夏へと向かう
八十八夜に
季節も何もかも超えて
あの世へと向かう

ストーブも隅に追いやられ
男たちは半袖ではたらく
おもちを焼いていた季節が
はるか遠い昔のことに
かき飛ばされる

いっぱいおちちを吸ってください
大地からあらゆるチカラを
吸いあげる木の根っこの如く
そして
哀しみも優しさも
ぜんぶ抱きしめて
49回地球が回ったら
手放しませう

そうこうしているうちに
赤子は
仏のような生き物から
にんげんへと
変身する

そして今
雨の降らない梅雨に
クチナシの香りが
漂っている



2005年初夏



自由詩 おもちちち Copyright yangjah 2006-01-04 11:00:45
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