一枚の絵から
肥前の旅人
こうず まさみ
校長室の片隅に
二つ切り大の洋画が 掛かっている
その絵には画面いっぱいに
二頭の犬が 描かれている
描き手を信頼しているのか
寝そべっていたり
目先があらぬ方向を見ていたり
今にもムクッと起きあがり
画面から飛び出しそうだ
市主催のコンクールに入選したの
恥ずかしそうに応える卒業生の
言葉に惹かれ
自宅から運ばせたものである
厨房の扉の向こうに見えるその絵
出会うたびに一息入れて
しばらくたたずむ
十四歳の青春を走っているS子の
姿が浮かびあがる
からだろうか