ところてん
なな子

煙を噴く銃口を見つめる少年も
血まみれの死体も
出来心でチョコを盗んだあの子も
基金をかき集めた難病の家族も
集められなかった家族も

この一秒には祈ったのだろうか
自分のために
家族のために
新年とか朝日とかコインとかそういうものに

祈った矢先に命尽きる人もいるんだろう
このたくさんのたくさんのたくさんのたくさんのたくさんの
たくさんの祈りはどこにいくんだろう
祈りはどこにいるんだろう

わたしが思うに きっと祈りは
ところてんのようなものなんだろう

とうめいでうねうねしていて
とうめいなので気付かれずに
この世界に横たわっているのだ
たまに誰かがけつまづき
そのせいで突然 誰かが祈った世界の平和を
祈ったりするのだ

そのとうめいな祈りの束を
懸命に消化しているのは
汚れた紙袋を持った あの老人なのかもしれない
彼はところてんを食べるのに精一杯で
自分のことに構っていられないのだ

わたしはせめて彼のために
ちいさく明けましておめでとうと呟いてみよう
わたしがこんなことを突然書き出すのも
誰かの吐き出したところてんを踏んづけたからなのだ


自由詩 ところてん Copyright なな子 2006-01-01 00:56:04
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