小指の約束
北乃ゆき

「夏が終るころにはこの街にはいれないの」と
ビイ玉の涙を零す少女
生まれたのは
愛でせうか
それともただの性欲でせうか
白いぶらうすのぼたんがはずれる
ひとつ、またひとつ

夏休みの教室で
「また必ず会おうね」と
絡ませた小指の約束
絡ませたのは小指だけではないのでした
十二歳と十二歳の
からだとたましいの未熟な絡まりなのでした

その日
人の匂いを知りました
鼻先を掠めた体臭は
きついけれど心地よい中毒性を持つていて
生涯この匂いを追い求めてゆきたいと
新しく生まれた自分が欲するのです

窓の向こうから
真昼の太陽がぎんぎらとこちらを見ていて
まるで大人たちに見つかったようでした
白昼夢ではないのです
それはたしかに現実で
現実が現実であることが
嬉しいような怖いような
そういふ現実なのでした


「また必ず会おうね」という約束を
小指は忘れてしまいました
残されたのは
遠い夏の
人肌の残り香のみでした








自由詩 小指の約束 Copyright 北乃ゆき 2005-12-31 15:51:33
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