見上げる
フユナ

ほんの少し見上げる
空をとは言わない
空ではない
そんな長いこと
ここに蓋をしてるもんじゃない
たしかにそれは澄んではいるが
いずれ波打って
曇り掠れ朽ちていくもの
それを
見上げる



ピアニカの音が
聞こえる。
この先、遠くから
子供がいるのだね、と
呟いてみる
呟くことだけだった
今までは
子供だったろうか
はたして



さよなら
いつか、という言葉
さよなら
ねがい、という言葉
見上げて
そう呟いてみる
さよなら
つづく、という言葉
さよなら さよなら
叱られた
さよならを繰り返すのは
空を見上げることだと言って



ピカ、ピカ。
またここで
ピアニカの音がひよめいている
ほんの すこし、
見上げたそれに吸い込まれ
 (見上げないときの
  指先に充満し)
 (うつむいたときの
  つま先に充満して)
ピアニカは
いずれかへ
音の持ち主からいずれかへ
たゆたってゆくようだった
空ではなく
ほんの すこし
見上げたそれに吸い込まれて



それは、
輝いている
突き刺した針のように
いずれは
波打って曇り掠れて
朽ちていく
が今は、
輝いている
標本の虫ピンのように
それを
見上げる
見上げる
ほんの すこし
首を上向けて



だってそれが、
美しいのだ






















未詩・独白 見上げる Copyright フユナ 2005-12-31 02:17:49
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