ノート(誰も信じてくれないもの)
木立 悟
こおろぎが歌っていた
草むらに伏した子の
目の前で
太陽のない午後の理科室
もうすぐ終わる授業中に
床と天井の間に浮かぶ
水銀色の粒の柱
青空と灰空と
白い雲のなかにしか見えない
光でできた無数の虫たち
風を知らずに漂いつづける
傷のような模様の窓から
外の明るさだけを見つめるとき
空には一枚のガラスが現われ
音のかたちを差し伸べてくる
取ろうとすると消えるかたちを
ただそのままを告げるかたちを
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