くぼみ
たもつ


夏、庭にアリクイが迷い込んだ
首輪をしていないところをみると
たぶん、野良アリクイだったのだろう

アリクイは庭で蟻を食べ続けた
長い口先から長い舌を蟻の巣めがけて伸ばし
舌に小石や砂がついても気にすること無く
アリクイはただ蟻を食べ続けた

やがて夏も終わり
蟻が庭からいなくなると
食べるものがなくなったアリクイは
片隅の陶器の置物の側に丸くうずくまり
その定位置から動くことはなかった
時々、長い口先でくしゃみのような
あくびのような
あるいはため息のような
音をたてるくらいで

冬のある朝
アリクイは庭から姿を消した
帰るべき所に帰ったのか
帰るべきではない所に帰ったのか
いつもうずくまっていた片隅の陶器の置物の側には
くぼみが出来ていたけれど
春になりまた次の夏がくると
あやふやになって
くぼみだか何だかわからなくなった




自由詩 くぼみ Copyright たもつ 2004-01-20 23:34:19
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