くぼみ
たもつ
夏、庭にアリクイが迷い込んだ
首輪をしていないところをみると
たぶん、野良アリクイだったのだろう
アリクイは庭で蟻を食べ続けた
長い口先から長い舌を蟻の巣めがけて伸ばし
舌に小石や砂がついても気にすること無く
アリクイはただ蟻を食べ続けた
やがて夏も終わり
蟻が庭からいなくなると
食べるものがなくなったアリクイは
片隅の陶器の置物の側に丸くうずくまり
その定位置から動くことはなかった
時々、長い口先でくしゃみのような
あくびのような
あるいはため息のような
音をたてるくらいで
冬のある朝
アリクイは庭から姿を消した
帰るべき所に帰ったのか
帰るべきではない所に帰ったのか
いつもうずくまっていた片隅の陶器の置物の側には
くぼみが出来ていたけれど
春になりまた次の夏がくると
あやふやになって
くぼみだか何だかわからなくなった