「空白乗車券」
服部 剛
仕事帰りの人々がため息まじりにぞろぞろと
スクランブル交差点をわたり渋谷駅へと吸い込まれてゆく
18時20分
パチンコ玉なった僕は
ジグザグに人と人の間を縫ってゆく
安いぺらぺらのジャンパーを着た
ハーフらしき茶色い瞳の小さい男の子は
鼻水のたれる穴をふさいだティッシュをつめこんだまま
シャドウボクシングを繰り返し
避けてよたつく僕の腰をかすめていった
後ろから姉らしきブロンド髪の女の子が
元気ハツラツ「オロナミンC」のビンを片手に小走りで
雑踏に消えゆく弟の背中を追いかけていった
駅の入口に吸い込まれ落ちてゆく
無数のパチンコ玉の中の一人である僕も
乗車券を差し込んで自動改札を通過する
構内を僕は走り抜ける
動く歩道に乗る人々を追い抜いて
柱に貼られたポスターの
「Stand Up!〜駄目な奴だと言われても〜」
という映画タイトルを横目に
発車時刻の迫る駅のホームへ
( 運命の列車は忘れた頃にやって来る
( 乗り遅れてはならない
( 我を忘れて走る時
( ポケットに入れた行先の記されていない
( 真っ白な乗車券は
( 人知れず光を縁取り始める