「空白乗車券」
服部 剛

仕事帰りの人々がため息まじりにぞろぞろと
スクランブル交差点をわたり渋谷駅へと吸い込まれてゆく

18時20分

パチンコ玉なった僕は
ジグザグに人と人の間をってゆく

安いぺらぺらのジャンパーを着た
ハーフらしき茶色い瞳の小さい男の子は
鼻水のたれる穴をふさいだティッシュをつめこんだまま
シャドウボクシングを繰り返し
けてよたつく僕の腰をかすめていった

後ろから姉らしきブロンド髪の女の子が
元気ハツラツ「オロナミンC」のビンを片手に小走りで
雑踏に消えゆく弟の背中を追いかけていった

駅の入口に吸い込まれ落ちてゆく
無数のパチンコ玉の中の一人である僕も
乗車券を差し込んで自動改札を通過する

構内を僕は走り抜ける

動く歩道に乗る人々を追い抜いて
柱に貼られたポスターの
「Stand Up!〜駄目な奴だと言われても〜」
という映画タイトルを横目に
発車時刻のせまる駅のホームへ


( 運命の列車は忘れた頃にやって来る
( 乗り遅れてはならない
( 我を忘れて走る時
( ポケットに入れた行先の記されていない
( 真っ白な乗車券は
( 人知れず光を縁取ふちどり始める 





自由詩 「空白乗車券」 Copyright 服部 剛 2005-12-21 22:33:34
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