ここにはかべもうすいまくもありません
山本雅代
叩いて
柿の実の ポト ポ ト
落ちている ト なり。
毒虫のついた枝葉。
鋏で ちょきん
私の毒虫叩いて。
断崖の見晴らし。
血の ポト ポ ト。
私の這う姿が
となりでねむっているみたい。
かべもなくうすいまくもありません
ちかづいていくときはなたれて
いく
おとこというおとこ
わたしのとなりでねむっているみたい
(どくむし)
ぽと ぽ と。
舌の奥痺れる。
柿、
眠りについている毒虫 の
集まっていたものが
散らばり 溶けて 浸入し
やがて実となり
虫となる。
妊娠線を這う 虫。
ちくちく縫った跡を。
私は毒虫の 子供。
うひゃうひゃと笑う、子供たちの遊び場はどこかに消えてしまい、父親がやってくると 危ないから と子供たちを遠ざけて
柿
の木や枝についた虫を鋏で切り落としていくと、虫が下に落ちてきて こいつら と父親は言いますが、子供であった頃のわたしは、その虫をそれはそれはじくりと観察したものです
毒虫
の笑う顔ときたら。