24時間後
あまくちペルノ

朝起きて隣を見てみると
やっぱり君はいなかった

いるとも思っていなかったけど

フライパンを火にかけてオリーブオイルとバター
電子レンジでミルクはホットで
あたたまったフライパンに落とした溶き卵は
じゅう、と音をたてて踊り始め
ほら、みて、もうすぐ焼けるよ
そんなことさえいちいちと
報告したくて君を大声で呼んでいた

いつかは蕎麦の茹で加減が分からないなんて
君の事 蕎麦名人 だなんておだてておどけて
あったかい年越し蕎麦を食べて
退屈なテレビにけらけら けらけら
笑っていた大晦日だったね

その日繋いだ手が最後になった
知られずに愛に悩んだ君
初詣にふたりは お互い何を願っていたのだろう
私はおわりをしってた
あなたがしあわせならそれでいいと
私じゃなく それだけはおねがいしますと
目をぎゅっと閉じて必死だったあの瞬間(とき)

最後にはいられた私のからだは
まるで人形のようにあつかわれ
はずかしいからみないでと照れたら
白い目をしていたあなた

あいと呼びたくなくなったから
さよならしたの


なつかしいね



今ではもう何もかもが色あせた
これを枯れ切った想い出と呼ぶのでしょう
すぐ傍に飾られたドライフラワーが
いつもより美しく見える朝
味の無いガムを噛み直すように
君との思い出を噛み直す

今になると美しい想い出
味のないようで甘いような
古びたキャンディのような


それでも今日みたいな朝は思い出す
とびきりの君との日々を
また オムレツが焼けたよ、と
君をちいさな声で呼んでみる
誰も答えない
がらんとしたフローリング
鮮やかさだけが取り残される部屋

ああ 今日だけきみに会ってみたい
今この瞬間だけは きっとまだ
あの日の24時間後


自由詩 24時間後 Copyright あまくちペルノ 2005-12-19 17:08:52
notebook Home 戻る