冬、寒い、雨
F (from send-ence)

冬になると寒い寒いといつも言っていた
君の最後の言葉は
寒い
だった

雨が降っていた
君は雨が大好きだった
どんなにたくさんの雨粒達がアスファルトに打ち付けられても
”雨”の一言で終わってしまうことに心を痛めた君は
全ての雨粒に名前を付けたい
君は僕にではない誰かに言った
一日中名前を名付け続けた

街の明かりがまだ名前のない雨粒を照らす

風には名前を付けないの?
僕は聞いた
君は目線を水平を基準として60度下向きにして答える

風は見えないものだから

雨が降っていた
君を思い出す
僕は名前を付けない
雨と呼ぶ
雨と呼んでいる

雪の降らないこの街で君が雪に名前を付けることはなかった
君に名前をもらった雨はどこかの空で雪として降っているかもしれない

空は続いている
君を思い出す
昨日の空
アンドリューはどこかへ行ってしまったようだ
今日の空には君の名前を付けようと思う

雨が降っていた
カラカラの空気が一気に重みを増す
冬にはいつも寒いと言っていた君を思い出す
最初に頬に当たった雨粒に君の名前を付けたかったが
空が困ると思ったので君の好きだった言葉をあげる

冬になるといつも寒いと言っていた君は
僕の名前はずいぶん前に忘れたようだった
僕の名前はどこへ行ったの?
君は言った

見えないものに名前は付けないの

冬になると寒い寒いといつも言っていた
君の最後の言葉は
寒い
だった


自由詩 冬、寒い、雨 Copyright F (from send-ence) 2005-12-15 02:52:16
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